このブログでは、救急・災害医療に関わる情報などの発信をするとともに救急救命士を取り巻く様々な問題を読み解きながら「救急救命士の働き方」を考えます。

 2019年11月6日に「救急救命士の活動範囲 病院内にも拡大の方針」というニュースが駆け巡りました。

救急救命士の活動範囲 病院内にも拡大の方針 
2019年11月6日 19時18分
救急医療の現場での医師の負担を減らすため、厚生労働省は救急救命士の資格を持つ病院の職員などが病院内でも救命処置を行うことができるよう活動範囲を拡大する方針を示しました。
救急救命士の資格を持つ人は現在、活動できる範囲が事故現場や救急車の中だけに限られていて、病院の職員や救急隊員が救命士の資格を持っていても病院内で救命処置を行うことはできませんでした。
厚生労働省は長時間労働が課題となっている医師の働き方改革を進めるため、6日に開かれた有識者会議に救命士が活動できる範囲を病院内にも拡大する方針を示しました。

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20191106/k10012166771000.html

 この問題については、長年議論が繰り返されてきましたが消防機関以外で働く救急救命士や養成機関の要請と医師の働き方改革という2つの大きな流れが合流したことで持ち上がった話です。

 私も大学病院からキャリアをスタートし、現在も非常勤講師として大学病院救命救急センターに所属しています。

 救命救急センター、災害拠点病院等に指定されている医療機関では、ドクターカーの運用や災害派遣医療チーム(DMAT)に関する業務など、従来から病院に所属する医療専門職が扱っていない業務があります。これらの業務は病院外での医療活動であるため救急救命士の教育課程との関連性が高かったため、救急救命士を雇用する救急医療施設が増えてきました。 私が2015年に発表した全国の救命救急センターを対象とした調査でも20%の施設で雇用されており、現在では施設、雇用人数ともにさらに増えていることが予想されます。

大松健太郎他,全国救命救急センターにおける救急救命士の就業実態.日本臨床救急医学会雑誌 2015; 18: 645-649.

 ところが、病院外で活動するドクターカーやDMAT等の業務では問題となりませんが、病院で働く上で一つの障害となっていたのが救急救命士法44条2項です。

救急救命士法44条

2 救急救命士は、救急用自動車その他の重度傷病者を搬送するためのものであって厚生労働省令で定めるもの(以下この項及び第五十三条第二号において「救急用自動車等」という。)以外の場所においてその業務を行ってはならない。ただし、病院又は診療所への搬送のため重度傷病者を救急用自動車等に乗せるまでの間において救急救命処置を行うことが必要と認められる場合は、この限りでない。 

 病院外において救急患者を救急車に収容し搬送し、病院に到着すると病院外で行える医療行為が行えないため、引き続いて患者のケアを行えないという障害を抱えているわけです。

 救急救命士法制定時には想定されていなかった多様性が生まれています。多様性に対応した法制度の見直しによって病院外から病院内まで救急・災害医療を専門とする医療専門職となり、ますます患者ケアの知識・技術の向上が求められていくことと思います。

 ただし、すでに存在する医療専門職との業務の棲み分け、教育課程の見直し、消防の救急隊員の確保などの問題について十分な議論をすることが必要と考えられます。これらの課題をクリアした上で、患者そして同僚から認められる形で新しい救急救命士の働き方がスタートすることを祈っています。